コロナ禍でのHACCP義務化(法制化完全施行)に思う世界と日本の違い~積分思考と微分思考~

コロナ禍でのHACCP義務化(法制化完全施行)に思う世界と日本の違い~積分思考と微分思考~

新型コロナの新規感染が収まりません。感染拡大から早1年半、もう第何波かわからない、緊急事態宣言が「常態化」しています。
これまで比較的よく抑えてきた日本でしたが、欧米がワクチン接種の進展で落ち着き、経済やヒトの流れを再開し復興に向け進みだす中、ワクチン接種の遅れから、ここにきてデルタ株の拡大で新規感染数は連日最高を更新、まさに私たちはまだまだパンデミックの最中にいます。コロナ禍の中、世界中で、ソーシャルディスタンスなど断三密や咳エチケットなどの行動様式とともに、手洗い、除菌・殺菌の徹底が、進んで来ています。これまで国内や世界を歩き回らないと得られなかったセミナーや講演が、ほとんど無料でウェビナーでアクセスできるようになり、打ち合わせもZOOMやTEAMSなどなど、飲み会までZOOMと生活様式は大きく変わりました。

今回のお役立ち情報はHACCP International 日本韓国代表 淺井伸宏氏によりコロナ禍でのHACCP法制化完全施行での日本と世界との違いについて記事を書いていただきましたので、紹介致します。

世界と日本の違い

コロナ禍の中では、小生が所属するHACCP Internationalでも、国際間のヒトの行き来は皆無となりました。もっぱらZoom会議で意見交換を行うことになり、逆にその頻度は、以前より増えてきています。そのような状況下において、不思議な現象が起こっています。当然こんな状態なので世界中で、検査も事務作業も滞る中、かなり苦労をしていますが、実は今、HACCP Internationalの認証申請が世界中でかつてないほど増えてきています。ただ、先進国の中でただ一カ国だけ蚊帳(かや)の外の国があります。それが実は日本です。

実際、日本ではHACCP Internationalの認証申請が2020年春以降減少しています。興味を持たれていて申請を検討されていた企業の多くが、「今はコロナ対策の除菌・殺菌、衛生が優先で食品のHACCPは後回しにせざるを得ない」とおっしゃり、当面保留というところも少なくありません。小生の説明不足、努力不足と落ち込んでいたのですが、HACCPにかかわる多くの方が同様の経験をされているようです。今年6月のHACCP法制化完全施行の前から、コロナ慣れもあるのでしょうか、多少増えてきていますが、まだまだ、経営者・責任者の方々には、「コロナ対策が先、HACCP取り組みの打ち出しは落ち着いてから」とおっしゃる方がたくさんいらっしゃいます。この話をHACCP InternationalのZoom会議で話すと、一瞬皆の会話が止まります。今、コロナ禍で、何度も世界で連呼されている「感染症対策」は、「一般衛生管理」とほぼほぼイコールです。HACCPはその対象が「食品」というだけで、その原理・しくみは、直接ウイルスを対象とした「感染症対策」と基本的に同じです。よって、HACCPに取り組むことはコロナの感染対策に取り組むこと、という思考回路になりコロナ禍だからこそ、HACCPの認証申請が増えるのは当然です。『コロナ対応が先、HACCPは後』というのは、理屈に合わない考え方です。

 

日本人独自のものの考え方

日本の食品業界におけるコロナウィルス対策と題を打ったオンラインセミナーは、世界も同様にたくさんの業界団体で行われています。小生も関わるもので参加したセミナーは、病院や施設のコロナ対策、クリーニング屋やリネン工場のコロナ対策、商業施設のコロナ対策など、昨年はもう百花繚乱でした。このような環境のため、世界中企業は、「HACCP製品認証」を取得し、他の活動・第三者認証と合わせて、自社の製品・サービスがいかにコロナの今、安心、安全と一生懸命に取り組んでいるかをアピールしています。LinkedIn(SNS)上でも毎日のように目にします。むしろHACCP Internationalの立場からは、HACCPはあくまでも「食品安全」が対象です。HACCP運用だけでコロナに感染しないということではないよ、と一言言わないといけないような事態です。今回の投稿の話をオーストラリアの本社に相談したところ、そこのとこはしっかりと言っておいてねと言われました。

ところが日本国内では、「HACCPは食品」「コロナ対策はコロナ対策」、と見事に切り離しています。「HACCPとコロナ対策」の根底にある哲学は同じなのに不思議に感じます。小生は、これは、日本人独特のものの考え方にあるのではと思います。日本人は、物事を部分部分に分け、そこを徹底的に深く追求するのが得意です。ですから、限られた世界で、匠の極みを追求する微分の世界ではすごく強みを発揮します。バブルまでの高度成長期、東西冷戦、分断の世界の中で、軽薄短小が競争力の最大要素だった時代は、Rising Sun、Japan as No.1と頂点を極めることができました。しかし、ベルリンの壁が崩壊し、EUが統合し、世界がグローバル化し、国境を越え、世界が一つになったメガ・コンペティションの世の中、いわば積分の時代になって、大空から地上を見てあちらこちらダイナミックに戦略的に動けるものが勝ち、という時代になりました。そういうことが不得意な日本人は、その後失われた30年といわれる長期低落の憂き目を見ています。昨年発表されたスイスIMDの2020年国際競争力ランキングでは日本はついに34位まで順位を下げました。昨年の30位からまた4つ下げ、欧米先進国はもちろん、中国、韓国にもはるかに越され、チェコの次、スロベニアの上で、日本より下の先進国はスペイン、イタリア、ロシア、トルコしかありません。

微分法ではなく積分法で

先に指摘させていただいた、日本人のコロナが先、HACCPが後という「論理」は、「微分思考の世界」では理解ができる面もありますが、「積分思考の世界」では理解できないとなるのではないかと小生は理解しています。ここでの微分思考とは、一つの事象の各要素を細かく細かく分けていき、その細かい部分を徹底的に追及していこうという思考方法です。一方、積分思考とは一つの事象の各要素をあたかも大空から鳥の様に見て、前後左右とも比較検討しながら、まとまりとして検討し、大方針をだしていく思考方法です。

一昨年、当社HACCP Internationalの技術責任者マーティン ストーン氏が、来日時のインタビューで日本の衛生管理について聞かれて、下記のように意見を述べています。

 

写真1:技術責任マーティン ストーン氏と日本韓国代表 淺井伸宏氏

―過去に日本企業で働いた経験や今回の来日などを通して、日本の食品衛生・安全確保対策についてどう感じていますか?
ストーン氏 「日本の食品工場などは見た目は非常に衛生的で、手洗い設備やトイレ、食品製造エリアなどを見ても非常に衛生管理が行き届いていると感じます。ただ、日本の食品企業は目に見える細かい部分では管理を徹底していますが、トータルでの管理をさらに強化する必要があると思います。特に外から導入されるものに対して無防備な感じがします。今回の「フードセーフティジャパン」(2019年9月11日~13日、東京ビッグサイトにて開催)でも、洗浄用ブラシなどが色分けされていたり、衛生面や安全面を重視した様々な資材が展示されていましたが、それらいわゆる非食品アイテム(Non- food Items)のクリーニング手順やペストコントロールなどの規定などについては明確になっていません。」(「月刊HACCP」2019年12月号)

 

つまり、「細かく微分法で追及するのは得意なのに、なぜトータルに積分法で管理ができないのか(やらなくても平気なのか)」という問題提起をしています。

最後に、小生がロンドンの大学院に留学中(もう30年も前の話です)に、トヨタのカンバン方式は「哲学」であると唱える教授に、ほとんどの日本人留学生は???でした。ダーウインの進化論しかり。日本人には、カンバン方式は生産方式、進化論は進化論でしかない、そうとしか見られないのですが、世界の学生・教官の目では、カンバン方式は生産のみならず、世の中のどんなプロセスにも通用する考え方(哲学)であり、進化論もまた、社会のいろいろな現象に応用できる考え方であるのです。

とりとめもない話ですが、今回のコロナ禍によって、このような考え方(哲学)について深く考えさせられました。日本が再び輝きを放つには、微分思考のみならず、世界に目をむけ世界の知恵とリソースを活用する多様性を持つことにより「積分思考」を重ねていく必要がありそうです。ちょうど日本勢が大活躍した東京五輪が終幕したばかりですが、スポーツの世界では、野球もサッカーもバスケットボールでもその芽がでてきているように思います。2019年W杯でのラグビーのJAPANはまさにその象徴だったように思います。「微分思考」プラス「積分思考」で!再び世界で輝きを放つ日のために!

まとめ HACCP Internationalから読者の皆様へ

HACCPのセミナーなどで、よく、グラバー二博士のピラミッドで「HACCPによる食品安全マネージメント」を説明されます。

図1:HACCPによる食品安全マネージメント


つまり、「HACCPによる食品安全マネージメント」を生きたものにする為には、部分に切り分け突き詰めるだけでなく(微分思考)、「食品安全には何が必要か?」を総合的に見て、必要な要素を意識し、そのすべてを同時に総合的に活性化して、マネージしていく(積分思考)ことが不可欠になります。HACCPはもともと米欧生まれです。米欧の人たちにはわりとすっと入ってくるこの思考がどうも日本の方には苦手なようです。日本の「微分」の強さを活かしながら、この「積分的思考」で総合的なアプローチができれば、日本のHACCPも成功し、世界標準のもとに、名実ともに世界に認められる食品産業になれるのではないかと思います。私たちHACCP International社は、Non-Foodの食品安全認証機関として、その一端を担い、皆さまの競争力アップに貢献できればと思います。

HACCP Internationalとは?

HACCP International社は、オーストラリアに本社を置く国際認証機関です。欧州、アメリカ、アジア、日本を拠点とし、食品以外の機器、器具、材料やサービスなど「non-food」と呼ばれる領域の製品・サービスが、食品安全の見地から見て適切であるかどうかを審査、認証する活動を行っています。世界の様々な認証機関を認定するIAFメンバーであるJAZ-ANZ(Joint Accreditation System Australia New Zealand)から認証機関として認定を受けており(図1参照)、食品工場で使用される製品、サービスに至るまで幅広く認証を行っているのはHACCP International社のみです。
また、食品業界における世界最大の業界団体の一つであり、食品安全に関わる認証制度の格付けを行っているGFSI(Global Food Safety Initiative)メンバーでもあります。

図1:HACCP International社の位置づけ

HACCP製品認証では何が評価されるのか?

HACCP 製品認証では、材料と仕様、毒性、汚染のリスク、清掃のしやすさなど、製品そのものの特性だけでなく、ラベル表示や梱包、取扱説明書などに至るまで、幅広い観点から審査が行われます。特に、製品自体の汚染リスクや清掃のしやすさについては厳しく評価されます。HACCPの考え方に基づいて製品の審査が行われるため、本認証の取得は食の安全に対して優れた対応能力があることを証明しています。

図2:HACCP International社が評価する領域

 

HACCP International 日本韓国代表 淺井伸宏氏

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