食品安全における一般衛生管理、設備・機器・備品・設計・設置に注目!
前回アップさせていただいた出稿で、2020年10月、16年ぶりに改訂されたCODEX の改訂について説明させていただきました。その中の大きな部分として、一般衛生管理(GHP)が強調され、一般衛生管理(GHP)とHACCPを合体した「食品安全システム」が明確化されました。全体を俯瞰し、より広い見地から系統的にリスクを分析し、対策していこうという考え方です。その延長線上として、従来一般衛生管理に分類されていたものから「極めて重要な」ものを取り出し、GHP requires Greater Attention(より注意が必要な一般衛生管理)としてCCPと同様の厳しい管理を行うように、という指針が出されています。
今回は、この部分を掘り下げ、これまで、特に日本では十分に注目されてこなかった、食品安全を担保しやすい、厨房設計、設置工事、設備、機器、備品について、国内外の実例とともに、お話ししていこうと思います。
食品製造・調理のオペレーションを、HACCPに基づきしっかり管理していても、設備・機器・備品といったNon-Foodに食品安全の配慮が足りず、事故を起こしてしまう例は、あとを絶ちません。どんな風に?なかなか想像がつかないかもしれませんが、こんなことが起こっています。
いわゆるHazardには、生物学的、化学的、物理的の3つの分類に分けられます。そのそれぞれのケースについて、紹介させていただきます。なお、実際の社名を出すことはコンプライアンス上できませんので、社名は、仮名とさせていただきます。
生物学的Hazardの実例
床材・換気システムが原因でリステリアに汚染、リコールに至った例
XYZ Patisserieは、生鮮および冷凍のケーキと焼き菓子を食品サービス部門に提供する大手サプライヤーです。事業は順調に運営されており、食品安全管理プログラムのHACCP認証を取得しています。この施設は約20年間稼働しており、市場において、食品安全上の問題を起こしたことはありませんでした。
2017年10月、定期的な微生物検査により、一部のケーキ製品にリステリア菌が存在することが明らかになりました。これを受け、大量の微生物学的サンプリングとテストを含む調査が開始されました。結果、特定のバッチの一部(すべてではない)のケーキがリステリア・モノサイトゲネスで汚染されていたことがわかりました。これを受け、XYZ Patisserieでは、全国的な製品のリコールを行わざるを得ませんでした。
バッチ内の一部の製品が感染し、他の製品は感染しないのはとても珍しいことです。その後の食品科学者による調査では、この問題の原因となった領域が2つあることがわかりました。問題は食品に関連するものではなく、施設で使用されている非食品設備が原因でした。 発見された問題はフローリングの問題でした。質の悪いエポキシ樹脂が塗装されたフローリングは、製品のトロリー(台車)が小さな傾斜で押し上げられた場所でひび割れ、塗膜が剥がれました。床が剥がれ落ちたところでは、正しく消毒することができず、その結果、床の表面の下に大量のリステリアが発生しました。トロリーが傾斜面に押し上げられると、その重みで少量のリステリアが亀裂から押し出され、作業員の足とトロリーホイールに付着し、リステリアがパッキング室に運ばれます。 パッキング室の床から、リステリアは換気システムへの道に入り込みました。
この換気システムも、設計と設置が不十分であり、少量の凝縮水が溜まり、天井にある通気口に閉じ込められていました。リステリアがこの溜まった水で発見され、そこから時々滴り落ちていたことがわかりました。換気口の真下にパッキングテーブルがあり、その時間にテーブルに存在していたバッチのみ(バッチ全体ではない)がリステリアに汚染されてしまいました。
つまり、この場合、床材と換気の両方で、設計が不十分であった設備機器の使用が、汚染と製品のリコールの直接の原因となってしまいました。
適切な床材が使用されていたとしたら、リステリアはそもそもコロニー(細菌の集落)を作って、大きく繁殖することはできなかったでしょう。
もし、リステリアの繁殖が発生しても、適切に設計および設置された換気システムであれば、水の溜まりや滴下が起こることはなく、今回のような食品汚染まで至ることはなかったと思います。材料、設備、機器。サービスを正しく選択をすることは食品業界にとって不可欠であることがこの事例からもお判りになると思います。
化学的Hazardの例
バイトステーション(ネズミ対策用資材・毒餌設置用資材)起源の化学的な食品汚染の例
ACME食品製造は、乾燥した材料を大きな倉庫に保管していました。ネズミなどの齧歯動物を防ぐために、齧歯動物の餌を入れたバイトステーションを倉庫の周りに配置していました。使用したバイトステーションは圧縮されたボール紙でできていて、床や壁に固定されていませんでした。バイトステーションの少なくとも1つがフォークリフト車によって取り外されて轢かれ、その結果、齧歯類の餌が床に粉になり、倉庫に広がりました。倉庫の作業者が、材料ユニットを動かすときに、殺鼠剤が床から保管されている製品(材料)の外側に移ってしまいました。この材料をミキサーに入れる時に、少量の餌がパッケージの外側から製品製造工程の中に入り込んでしまいました。定期的なテストにより、完成品に齧歯類の餌毒素の痕跡が見つかり、製品はリコールとなり、汚染源を特定するために、大きな費用をかけて調査・対策を打つことになりました。 所定の位置に固定でき、簡単に損傷しないように正しく設計されたバイトステーションを使用すれば、この問題は発生しませんでした。
これは、ペストコントロールサイドからの化学的ハザードの例ですが、その他にも、Non-Food起源の危険は潜んでいます。
食品製造の現場では、手袋、スポンジ、たわしなど多くの備品が使われます。例えば手袋ですが、その着色の為の顔料などで、アルミニウム、バリウム、ニッケル、鉛などの金属やアレルゲン物質など、食品に対する化学的汚染物質が含まれている場合、手袋が食品と接触すると、化学物質が手袋から食品に入り込む可能性があります。
ほとんどの国では、包装材料、保管容器、手袋など、食品と接触する材料に関する規制または基準があります。 これらの規制には、危険なレベルの化学物質が食品に入り込むような材料を使った製品を許可しないという要件が含まれています。
日本でも、厚生労働省から、「器具・容器・包装のポジティブリスト」が出されています*。食品と接触する製品の成分に、このような危険な化学物質を含まないようにしなければなりません。
物理的Hazardの例
物理的Hazardの代表的なものは「異物混入」です。
アイスクリームに混入した金属片が製品リコールを引き起こした例
ミキサーの食品安全設計の不備が、異物混入を引き起こした例です。LMN乳製品社で、アイスクリームを製造するための材料を混合するために、大きなミキサーを使用しました。ミキサーの中央シャフトは、両端のベアリングによって所定の位置に保持されています。ベアリングの1つが故障し、回転シャフトがベアリングの金属ハウジングを研削してしまい、金属片が生成されました。機器の安全設計が不十分であったため、ベアリングの周囲で生成された材料がミキサーの本体に入り込んでしまい、アイスクリームミックスを汚染してしまいました。潤滑剤もベアリングハウジングから漏れて製品製造工程に入り、製品を汚染した可能性があります。案の定、完成品から金属が発見され、製品のリコールが発生しました。問題は数か月にわたって発生し、この時点からのすべての製品がリコールされて破棄せざるを得ず、会社は大きな損害を被り、顧客の信頼を失ってしまいました。
HACCPの思想に基づき、食品安全を考慮した設計をしている機器を使用していれば、このような問題が発生する可能性は低いと思われます。
キッチン用たわしにより引き起こされた金属汚染の例
PQRベーカリーでは、大きな鍋を使用して、パン製品の内部に充填するための材料を加熱しています。使用後、大きな鍋を金属のたわしを使用して洗浄しました。 金属たわしが、ポットの側面のリベットに引っかかって、たわしの繊維が脱落し、これらの破片が、調理工程に入り込み、食品に紛れてしまいました。 子供がそういう食品の1つを消費し、金属繊維が子供の胃に損傷を与え、手術と長いリハビリが必要になりました。 すべての製品のリコールが開始され、PQRベーカリーは民事訴訟で訴えられ、法的裁きを受けることになりました。 ABCベーカリーが「無害な材料」で作られたキッチン用たわしを使用していれば、子供への怪我、訴訟、製品のリコールは回避されたでしょう。
このように、HACCPの工程管理の中で、異物混入がCCPになることは多いですが、これを防ぐには、正しく設計され、生産された機器を、正しく使用することが、大切であるということがわかります。
設備・機器・備品のHACCP対応?
HACCPはいわゆる12原則7手順、食品製造・調理の現場でのオペレーション管理と理解されている方々が多かったのですが、最近では、上記のような、非食品から入る事故のリスクを鑑み、食品安全の観点から優れた製品を選択するという動きが出てきております。上記の例のように、安全設計が不十分な、機器・設備・備品、あるいはその不適切な使用を起因とする事故は数多く発生しております。
食品安全を考慮した設計の機器を使うことが必要です。とはいえ、お使いの機器が大丈夫か?どこで判断すればいいのでしょうか?
最近、機器・設備・備品で、「HACCP対応機器」とうたっている製品が多くみられるようになりました。このような一般衛生管理を容易にし、設計面、施工やメンテナンスでも、食品安全事故のリスクを軽減する機器という意味です。
ただ、これだけでは、機器メーカーが、自己基準での自己アピールです。これは日本特有の現象です。世界では、機器メーカー自らの「宣言」だけでは信用されず、「忖度のない」「第三者専門機関」の目で審査され、認定されることにより、はじめて信用に値するものと認められます。それが、HACCP Internationalのプログラムです。HACCP Internationalは、上記のようなGHP管理に適した機器であるかということを、CODEXの視点で検査するプログラムを開発し、審査・認証する国際的な認証会社で、調理機器はもちろん、空調、床面、照明、ケミカル、ペストコントロール、備品、サービス等、広範囲にわたって、世界の1000社程の製品・設備・備品に認証をしています。
HACCP Internationalの認証製品・設備・備品を使用することにより、物理的・化学的・生物的ハザードの発生を最小限に抑えることができます。
HACCP Internationalによる認証
HACCP Internationalは、特定の製品に付き、HACCPベースの食品安全プログラムによって管理される業務での食品取り扱いに適している安全な機器と認定しています。
製品は、世界保健機関(WHO)のCODEX委員会が規定しているHACCPの原則に基づいて、リスクベースのハザード分析を実行することにより、認証の目的で評価されます。 HACCP Internationalの食品安全基準であるFOOD SAFE PRODUCTS and SERVICE for FOOD BUSINESSでは、リスクベースの評価プロセスを説明し、認証の要件を定義しています。
評価では、製品に関する情報をサプライヤーまたはメーカーから収集します。すべての添加物、加工助剤、潤滑剤、粉末、および顔料を含む組成物の材料は、オーストラリア、米国、日本、欧州の食品接触規制と比較して、食品接触への適合性について評価されます。
製造元の品質システムを検証し、製品が一貫して仕様どおりに製造され、適切に追跡できることを評価、確認します。製品は、汚染から保護されるように取り扱われ、梱包され、保管され、輸送されていることを製造業者と確認します。
化学物質の移行試験結果をレビューして、食品への化学物質の移行から生じる可能性のある危険が製品にないことを確認します。
形状、耐久性、パッケージ構成、および過剰な粉末、糸、繊維、その他の物理的汚染物質および香りの有無を評価します。
製品の洗浄性を評価します。
製品パッケージおよび/またはラベルの情報もチェックされ、製品に関する記述が食品の安全性に関して正確であることを確認します。貯蔵寿命、保管条件、ロット識別の有無、すべて評価します。
HACCP International認定の製品は、第三者が、公平な目で、科学的論理的かつ系統的に評価を行い、生物学的、化学的、物理的なハザードHazardを起こすリスクを下げるという意味で、より安心してお使いいただける製品です。
株式会社バーテックのブラシやペストコントロール機器は、そんな第三者認証機関であるHACCP Internationalの認証を受けており、食品工場・総菜工場・セントラルキッチン・各所厨房といった、食に関わる現場で、安心してお使いいただける製品となっております。
HACCP International 日本韓国代表 淺井伸宏氏
*厚生労働省「食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05148.html
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